もうすぐ消費税率が10%に上がります。軽減税率なるものが導入されて、国税庁から膨大な量のQ&Aが出されていて、実務的には相当混乱しそうです。税法というものは、政治的な駆け引きの結果、どんどん複雑になっていくように感じます。
そんな中、消費増税に反対している高橋洋一氏の『増税の真実』を読みました。
著者は元財務官僚ですが、日本の借金が1000兆円というのは全くのデタラメであると主張していることで有名な方です。
そんな著者は、消費税を社会保障費の財源とすることに反対しています。
そもそも、1989年4月に消費税が導入されたときは、その目的を「直間比率の是正」としていました。それが2009年の税制改正で社会保障目的税化され、2017年10月の衆議院議員総選挙で社会保障制度が全世代型に転換されて、消費税の目的がいつの間にかすり替わってしまいました。
著者は、年金の不足を消費税でカバーするのではなく、所得税と保険料の徴収漏れで埋めるべきだと主張しています。
また、年金制度は将来破綻するから今保険料を払っても損ではないかといったことがよく言われますが、著者によれば、人口動態が想定内に推移していけば、年金数理によって制度は維持できるとしています。
年金数理は専門的で素人にはなかなか理解しにくいものですが、年金数理によれば、将来のわたる年金債務と保険料収入のバランスシートをつくれば債務と資産は必ず一致するものであり、一時点で区切って債務超過だと言っても意味はないと言います。
そのため、年金制度を維持するためにもっとも重要なことは、持続的な経済成長によって現役世代の所得が増加していくことになります。
さらに、財政赤字について、政府のバランスシートを見れば財政再建は完了していると言います。著者によれば、まずほとんどの政府資産は売却可能であり、残りについても、日銀を政府の連結子会社と見る統合政府の考え方に基づき、日銀の保有する国債と政府債務を相殺すれば、国の借金はほとんどなくなる、ということになります。
こうした考え方は伝統的な経済学の理論とは相容れないものです。経済学者からは、日銀による大規模な国債の買い入れが円の信認低下を招くということが言われますが、少なくともこれまでのところはそうした心配は杞憂に終わっています。
著者の主張が正しいのか伝統的な経済理論が正しいかが明らかになるには時間がかかると思いますが、財政再建ばかりを強調するあまり、財務省がせこい増税を画策したり、減税の効果を減殺するようなことに対しては、僕も批判的に思っていました。
著者の主張をそのまま鵜呑みにできるわけではありませんが、常識と思われていることを疑って見るという点から、本書は一つの参考になると思います。