エイリス・キャピタル(ARCC)の2020年第1四半期決算が5月5日に発表されました。
損益の概要
2020年第1四半期はCore EPSが0.41ドルで前年同期比▲14.6%と減少しました。一方、Net investment income(投資利益)は234百万ドルで、前年同期比+16.4%となったものの、GAAPベースの純損失は612百万ドルと巨額の赤字を計上しました。このように、非常に厳しい内容の決算でしたが、当社は第2四半期も1株当たり配当金を0.40ドルとすることを発表しています。
出典:当社リリース資料
Core EPSとGAAP EPSの差異は次のようになっています。当期は巨額のNet realized and unrealized losses(実現及び未実現損失)が発生したため、両者の差異が大きくなっています。
出典:当社決算リリース資料
この点について、決算リリース資料では、新型コロナが世界経済に深刻な影響を与えたため、エイリス・キャピタルのポートフォリオの公正価値にネガティブなインパクトを与えたと説明しています。
当社は当期に880百万ドルもの未実現損失を計上していますが、これは一部には事業の閉鎖で特定の業種に対する懸念はあるものの、主として新型コロナの影響でマーケットのボラティリティが大きくなったことでハイ・イールドマーケットの期待スプレッドが拡大し、その結果当社の保有するローンなどの公正価値が低下し、未実現損失が発生したということになります。
当社のポートフォリオの投資種類別の償却原価と公正価値とを比較したのが下の表になります。2019年12月との比較になりますが、2020年3月末に償却原価と公正価値の差が大きくなっていることが分かります。公正価値の償却原価に対する比率が、2019年12月末が98%だったのに対して、2020年3月末は93%に低下しています。つまり、それだけ未実現損失が発生していることを表しています。
出典:FORM 10-Q
バランスシートの状況
ポートフォリオの概要
①資産の種類別ポートフォリオ
当社のポートフォリオは48%が第一順位担保権付貸付、28%が第二順位担保権付貸付で占めており、ポートフォリオ全体の76%が担保権付貸付で、回収不能リスクは比較的低いと言えそうです。
出典:当社プレゼンテーション資料
②業種別ポートフォリオ
業種別ポートフォリオはかなり分散されていますが、ヘルスケアサービスが19%、ソフトウエア&サービスが14%と大きなシェアを占めています。
出典:当社プレゼンテーション資料
③運用利回り
当社のポートフォリオの運用利回りは、償却原価に対して8.9%、公正価値に対して9.4%と非常に高い利回りです。ただし、2019年12月末と比べると利回りが低下しています。これだけ高い運用利回りということは、やはりそれなりにハイリスクな運用をしていると言えそうです。
出典:FORM 10-Q
資金調達の概要
当社の資金調達はRevolving Credit Facility(回転信用枠)と社債、もしくは転換社債で行っています。その平均調達コストは3.475%と、運用利回りと比べるとかなり低いと言えます。
出典:当社プレゼンテーション資料
ポートフォリオの質
下のグラフは当社の内部格付による格付別ポートフォリオ構成比を示したものです。Grade1が最も信用力が低く、Grade4が最も信用力が高いことを表しています。
このグラフを見ると、残高でも件数でもGrade2が増えていて、信用リスクから見たポートフォリオの質が劣化していることがわかります。当社の定義によると、Grade2は回収リスクが高いが延滞は120日以内だとされています。これはあくまで3月末時点の状況ですので、新型コロナの影響が長引けば、さらにGrade1やGrade2が増えていく可能性があります。
出典:当社プレゼンテーション資料
配当金
当社は2020年第2四半期も1株当たり配当金を第1四半期と同様0.40ドルとすることを発表しました。2019年は0.40ドルの通常配当に加えて0.02ドルの特別配当があったので、2020年は前年からは減っていますが、通常配当の0.40ドルを維持している点は評価できます。
出典:当社プレゼンテーション資料
株価の推移
株価は新型コロナの影響が顕在化するまでは19ドル台で推移していましたが、3月23日には8.08ドルの最安値を付けました。
新型コロナの影響で経済活動が停止し、当社の貸付対象となる中堅企業の経営状態が危ぶまれたことが株価の暴落に繋がったと思いますが、その後は落ち着きを取り戻し、5月5日の終値で12.70ドルまで回復しています。なお、5月5日の終値による配当利回りは12.6%となります。
信用リスクに対する懸念が高まると株価が暴落するのは当社の事業の性質上、やむを得ないでしょう。
むすび
当社は赤字決算となりましたが、融資先の倒産が相次ぎローンなどが回収不能となって巨額の損失を計上した訳ではなく、新型コロナによるクレジット・マーケットの動揺により信用スプレッドが拡大したことで、ポートフォリオの公正価値を算定する際に多額の評価損が出たことが主な原因だと言えます。
損失の原因がマーケットの動揺に起因する評価損の発生によるものなので、市場の動揺が収まれば、業績も安定すると考えることができる一方で、ポートフォリオに占める低格付の資産の割合が高くなり、資産の質の低下が心配されます。
新型コロナの影響がいつまで続き、最終的にどの程度の影響を及ぼすのかはわかりませんが、トランプ政権は財政政策、金融政策を総動員してアメリカ経済を支えようとしていますので、私は現時点ではあまり先行きを悲観していません。
過去最も配当金が少なかった年が2006年で1.30ドル、リーマンショック後で最も少なかったのが2011年で1.40ドルでしたので、過去の実績からは配当金は底堅いと言えるでしょう。ただ、株価が一時6割程下げるなど、クレジットリスクには敏感な銘柄ですので、万人にお勧めできる銘柄ではないことは確かだと思います。
なお、この記事はあくまで僕の個人的な見解を示したものなので、投資判断はくれぐれも自己責任でお願いします。