日本株は為替、特にドル円レートの影響を受けやすく、円高になると株価は下がり、円安になると株価は上がる傾向にあります。その理由として、日本は輸出立国であり、円高になると輸出が減少するため企業業績が悪くなり、国内の景気も悪くなるというイメージを持っていましたが、経常収支統計をよく見てみると、実態はかなり違っていることがわかりました。
1996年から2017年までの経常収支の推移を見ると、経常収支は一貫して黒字であることがわかります。ただ、その内訳を見ると、黒字の大部分は第一次所得収支が占めていて、貿易収支に割合は近年縮小し、特に2011年から2014年は貿易収支が赤字だったことがわかります。
出典:財務総合政策研究所「財政金融統計月報第796号」
なお、速報値ではありますが、2018年も貿易収支は1兆2,033億円の赤字となっています。
出典:財務省「平成30年分貿易統計(速報)の概要」
では、大幅な黒字となっている第一所得収支とは何かというと、主として投資収益です。具体的には、海外への直接投資による収益や、外債や外国株式などの外国証券への投資から得られる利子や配当金などです。
出典:財務総合政策研究所「財政金融統計月報第796号」
つまり、円高による影響は、貿易収支よりも第一所得収支に対する影響の方がはるかに大きいのです。
少し古い統計ですが、輸出額のGDPに対する比率である輸出依存度は2016年で日本は13.1 %に過ぎません。日本よりも輸出依存度が低い国は、先進国ではアメリカ合衆国しかありません。つまり、日本は世界的に見ると内需依存国と言えます。
出典:総務省「世界の統計2019」
このように統計を見ると、円安になれば企業の海外事業の収益にプラスに寄与することで株価が上昇することは理解できますし、外国証券に投資している機関投資家や個人にとっても円ベースの投資収益にはプラスに働きます。しかし、輸出の増加による雇用の増加や設備投資の増加といった内需の拡大への影響は、今ではほとんど期待できないように思われます。さらに円安は輸入物価の上昇により、個人消費にとってマイナスに働く可能性があります。
つまり、投資家という立場から見れば円安はプラスに働きますが、生活者の立場から見れば円安はマイナスに働くことになるということです。日本の経済的地位が相対的に低下していき、円が弱くなっていくと、大企業の経営者や投資家にはメリットはありますが、日本国内ではますます格差が広がっていくのではないかと危惧してしまいます。