ファンダメンタルズに基づいて株式投資をする上で、様々な指標を使って企業の決算書を分析することがあると思いますが、企業の安全性を測る指標としてよく使われる「自己資本比率」について考えてみたいと思います。
自己資本比率とは
自己資本比率とは、一言で説明すると、総資本に対する自己資本の比率ということになります。
企業の貸借対照表(B/S)は簡単に表すと次のようになっています。B/Sの左側が資産の部で、右側が負債の部と資本の部で構成されています。ここで、負債の部は他人から調達したものなので他人資本、資本の部は株主のもので返済の必要がないため自己資本と呼ばれます。
【貸借対照表イメージ】
他人資本である負債はいずれ返済しなければならないなのに対して、自己資本は返済の必要がありません。そのため、自己資本の割合が高い、すなわち自己資本比率が高い企業は安全性が高く、財務的に健全であると言われます。
では自己資本比率がどれくらいあればよいのかということですが、上場企業全体の平均が40%ちょっとで、60%以上あると割と安全だと言われます。
自己資本比率が高いと良いのか?
自己資本比率が高いとROEが低くなる
自己資本比率が高いと財務的な健全性が高いということになりますが、良いことばかりではありません。企業の収益性、もしくは資本効率を測る指標としてROEがありますが、自己資本比率が高いとROEが低くなってしまいます。
なので、この式から当期純利益が同じなら、自己資本が多いとROEが下がることがわかると思います。
そのため、自己資本比率が高くてROEが低い企業に対して、株主から配当や自社株買いなどの株主還元をして自己資本を減らして、ROEを上げることが求められることがあります。特に資産として多額のキャッシュや換金性の高い有価証券などを保有している場合は、アクティビストから狙われることになります。
自己資本比率は業種や事業形態によって大きく異なる
東証一部の自己資本率の下位15社は次のようになっています。自己資本比率はかなり低いですが、これらの企業を見て危ないと思うでしょうか?これらの企業はスクリーニングで自己資本比率を使うと切り捨てられてしまいます。
注)2020年5月7日時点の四季報オンラインデータより管理者作成
逆に、東証一部の自己資本率の上位15社は次のようになっています。
注)2020年5月7日時点の四季報オンラインデータより管理者作成
好みはあると思いますが、極端な2つのグループを比べてみて、僕にはそこまで絶対的な差があるようには思えません。
ここで、同じ業種内で比較すれば意味があるのではないかという意見もあると思います。そこで、東証33業種のうちの電気機器を例に、自己資本比率の上位5社と下位5社を比較してみます。
下の二つの表を見ても、ジャパンディスプレイ(6740)は論外としても、その他の銘柄を見ても自己資本比率が銘柄選択の重要な要素にはならないと言えるでしょう。
【電気機器自己資本比率下位5社】
注)2020年5月7日時点の四季報オンラインデータより管理者作成
【電気機器自己資本比率上位5社】
注)2020年5月7日時点の四季報オンラインデータより管理者作成
僕は自己資本比率を意識することはありません
このように見ると、銘柄選択の段階で自己資本比率を見ることにほとんど意味がないと言えるのではないでしょうか。実際僕が銘柄選択をする際に自己資本比率を意識することはありません。
乱暴な言い方をすれば、東証一部で一定規模の時価総額のある企業であれば、簡単に倒産することはないでしょう。心配であれば継続性の前提に関する注記がないかだけ確認すれば十分ではないかと思います。
僕は、スクリーニングをする際に自己資本比率で絞り込んでしまうと優良企業まで排除してしまうデメリットの方が大きいと考えています。それに自己資本比率の高低と株価のパフォーマンスにどの程度の相関関係があるのかわかりません。
企業の安全性を確認するのであれば、それは初期段階ではなく、銘柄を絞り込んだ上で実際に投資をする前に、詳細な分析をする必要があります。
例えば、自己資本比率という指標を使うとすれば、数期間を並べてみて大きな変化がないか、もしある場合にはB/Sにどのような変化が起こっているのかなどを見ることで、企業の危険性を察知することは可能かもしれません。
むすび
この記事では、自己資本比率というメジャーな財務指標について、株式投資における銘柄選択ではあまり意味がないことを説明してきました。
自己資本比率は、銀行が中小企業に貸し出しをする際には、見ておかなければいけない重要な指標の一つではありますが、株式投資の銘柄選択の初期段階で一定の数値を基準に画一的にふるい分けしてしまうのはもったいないと思います。
財務健全性の評価については、そのうちまた記事にしたいと思います。
なお、この記事はあくまで僕の個人的な見解を示したものなので、投資判断はくれぐれも自己責任でお願いします。