信用取引は約3.3倍までレバレッジを効かせることができます。これをうまく使えば投資効率を上げることができますが、利用方法を誤ると破綻しかねません。一方不動産投資はレバレッジという点では株の信用取引よりはるかに危険なように見えますが、実際にはそうでもありません。その違いから株の信用取引のリスクを考えてみたいと思います。
不動産投資におけるレバレッジ
不動産投資ではフルローンで不動産を購入することもありますし、物件価格の1割+諸費用しか用意しないケースは割と一般的にあるように思います。私が過去に投資用として取得した区分マンションも自己資金はその程度でした。そのため、属性が良ければ自己資金が少なくても不動産投資で資産を増やすことができます。
ここで、株の信用取引は自己資金の約3.3倍までなのに、不動産投資の場合、自己資金の5倍、10倍の不動産を取得できて危ないのではないかと思われるかもしれませんが、不動産投資の場合、株の信用取引のように一瞬で破綻することはありません。
不動産取引の場合、借入をして取得した不動産が担保になりますので、このときのB/Sは図のようになります。
【不動産投資のB/S】
この場合、元利金さえ延滞せず払い続けていれば、基本的には担保価値がどうなるかは影響しません。そのため、不動産価格が下がったからと言って、いきなり繰り上げ返済を求められ、破綻することはありません。
株の信用取引におけるレバレッジ
株の信用取引の場合、担保の約3.3倍まで取引ができます。不動産投資と比較しやすいように信用買いのケースを考えると、株の信用取引の場合のバランスシートは次のようになります。この場合、担保となるのは当初証券会社に預けていた預け金又は株式で、信用取引で買った株式は担保に含まれません。
借入金(信用建玉)に対する担保(保証金)の割合を保証金維持率と言いますが、ここで保証金維持率はA/B(%)となります。この保証金維持率は取引時点で30%以上である必要があります。つまり、担保の約3.3倍まで取引ができることを意味しています。
【信用取引のB/S(取引時)】
不動産と株の大きな違いは、株式は日々時価評価されることです。そこで含み損が発生すると、計算上、担保から充当されることになります。そのため、担保が預け金の場合でも、信用買いポジションに含み損が発生すると、その分担保価値が減ってしまうため、保証金維持率は下がります。下の図では保証金維持率がA’/Bとなります。その結果、保証金維持率が下がってしまいます。保証金維持率が下がり、例えば私がメインで使っている楽天証券では20%を下回ると、追加保証金(追証)が求められます。
【信用取引のB/S(含み損のケース)】
さらに、担保として提供しているのが預け金ではなく現物株式(代用証券)である場合、担保の価値そのものも株価によって変動してしまいます。株価が下落して担保の価値が下がってしまうと、さらに保証金維持率が下がり、追証のリスクが高まります。
信用で買う銘柄と現物で担保としている株式が同じ銘柄の場合を信用二階建てと呼びますが、株価が下落すると買いポジションと担保である代用証券の評価額が連動して下がるため、より追証のリスクが高まります。
数値例で見る信用二階建て取引の恐ろしさ
信用二階建ての恐ろしさをよりわかりやすく解説するために、数値例を見てみたいと思います。
【数値例】
この例の場合、当初保証金維持率は80%からスタートしますが、A株式の株価が20%下落すると、
保証金評価額は
@800円×1,000株×80%-(@1,000円-@800円)×1,000株=440,000円
保証金維持率は
440,000円÷(@1,000円×1,000円)=44%
となります。
これが、30%の下落だと保証金維持率は26%にまで下がってしまいます。もう追証ラインにかなり近付いています。
現物と信用が1:1でも株価が下落すると保証金維持率がこれだけ危険なラインにまで下がってしまいますので、さらにレバレッジを掛けると簡単に追証になってしまうことがわかるのではないでしょうか。
むすび
借入をして不動産投資をする場合、元利金をきちんと払っていれば、担保価値が下がったとしても基本的には問題になることはありません。そのため、空室リスクや修繕費などの支出をコントロールしていけば、急に破綻することはありません。
一方、株の信用取引の場合、株の含み損がそのまま担保である保証金から差し引かれてしまい、さらに保証金維持率が一定の水準を下回ると追証や強制決済となりますので、突然破綻するリスクがあります。
楽天証券の場合、買い方の金利は通常で年2.80%なので、不動産の感覚で信用で例えば配当利回りが7%を超えているJT株を買って保有すればいいのではと考えたこともありましたが、さすがにリスクが高いかなと思い止めておきました。
なお、この記事はあくまで僕の個人的な見解を示したものなので、投資判断はくれぐれも自己責任でお願いします。