森トラスト・ホテルリート投資法人(3478)が、5月29日にこれまで未定としていた2020年8月期の運用状況及び分配金の予想を開示しました。
2020年8月期の運用状況及び分配金の予想
2020年8月期の運用状況について、営業収益は前年同期比▲26.6%の1,761百万円、当期純利益は前年同期比▲46.4%の863百万円、1口当たり分配金は前年同期比▲46.3%の1,727円となりました。
出典:当法人リリース「2020年8月期の運用状況の予想の修正に関するお知らせ」
コロナの影響で4月はインバウンドがほぼゼロになっていますし、そもそも「ステイ・ホーム」と言われて外出の自粛が要請されていましたので、4月、5月のホテルの業績がかなり厳しいことは予想されました。そのため、分配金がほぼ半減してもやむを得ないかなとは思います。インヴィンシブル(8963)の分配金が30円でしたので、それ比べれば上出来でしょう。
賃料算出方法及び基準月
なお、2020年8月期における各物件の賃料算出方法及び基準月は次のようになっています。これを見ると、サンルート新宿は固定賃料ですが、その他の4物件は変動賃料となっており、シャングリラとコートヤード東京、新大阪の3物件は年間最低保証賃料が設定されています。
出典:当法人リリース「2020年8月期の運用状況の予想の修正に関するお知らせ」
変動賃料の賃料算出基準月と当法人の決算期との対応関係が少しわかりにくいですが、2020年2月期の決算説明資料に分かりやすい図が掲載されていました。
出典:当法人2020年2月期決算説明資料
2020年8月までの当法人の賃料収入に影響を及ぼすのが、シャングリラは4月まで、コートヤード東京及び新大阪は5月までなので、今回公表された予想はかなり確度の高いものだと言えます。
各物件の状況
シャングリ・ラ ホテル 東京
当物件の変動賃料は賃借人が転借人から受け取った賃料の97%と設定されています。さらに、年間最低保証賃料が882,700千円と設定されています。
当法人のウェブサイトでは、2020年6月までの賃料(2020年2月までの実績)が掲載されていますが、新型コロナの影響が顕在化した2月の賃料は90百万円で、前年同月実績が135百万円でしたので33.3%減少しています。
当期の賃料収入を635百万円としていますが、6月までの4カ月間の賃料実績がすでに578百万円ですので、7、8月の賃料収入は2カ月間で57百万円しか見込んでいないことがわかります。
出典:当法人ウェブサイト
ヒルトン小田原リゾートリート&スパ
当物件は2019年1月から12月の12カ月分のホテルの基準利益の95%の12分1を賃料月額としていますので、すでに賃料収入は確定しています。
ただ、当物件は最低保証賃料の設定がないため、2021年2月期は、基準月が2019年7月から2020年6月の12カ月間となるため、大幅な減額は避けられないでしょう。
コートヤード・バイ・マリオット東京ステーション
当物件の毎月の変動賃料は当該月の3カ月前の月の本ホテルの営業利益の90%相当と設定されています。さらに、年間最低保証賃料が310百万円と設定されています。
当法人のウェブサイトでは、2020年3月までの本ホテルの業績と2020年6月までの賃料が開示されていますが、6月の賃料はゼロとなっています。
当期の賃料収入は132百万円を想定していますが、6月までの賃料収入を単純に足すとすでに131百万円となっていますので、7、8月も賃料収入はゼロと予想していることがわかります。
出典:当法人ウェブサイト
コートヤード・バイ・マリオット新大阪ステーション
当物件の毎月の変動賃料は当該月の3カ月前の月の本ホテルの営業利益の90%相当と設定されています。さらに、年間最低保証賃料が460百万円と設定されています。
当法人のウェブサイトでは、2020年3月までの本ホテルの業績と2020年6月までの賃料が開示されていますが、6月の賃料はゼロとなっています。
当期の賃料収入は136百万円を想定していますが、6月までの賃料収入を単純に足すとすでに113百万円となっていますので、7、8月の2カ月間で賃料収入は23百万円と予想していることになります。
出典:当法人ウェブサイト
ホテルサンルートプラザ新宿
当物件は固定賃料であるため、契約上は本ホテルの業績の影響を受けないことになっています。当期の賃料収入は652百万円としていますので、現時点では固定賃料の減額や繰延はないと想定されています。
2021年2月期の展望
緊急事態宣言は解除されたものの、ホテルに対する需要の戻りには時間がかかるでしょう。7月下旬には政府が観光業や飲食業支援のためのクーポンが発行されるようですので、8月の夏休みシーズンにはそれなりの需要は見込まれるものの、インバウンドの復活には時間がかかると思われます。また、新型コロナの影響で収入が減った人達は旅行どころではないでしょうし、業績の悪化した企業は出張を控えるでしょう。
シャングリラについては最低保証賃料との差額補填が2月に11/12か月分にありますのでまだいいですが、コートヤード東京及び新大阪については、2021年2月期は最低保証賃料との差額補填はありませんので、賃料収入はさらに減少する可能性があります。さらにヒルトン小田原も新型コロナの賃料収入への影響が顕在化してきます。
このように考えると、サンルート新宿の固定賃料が維持されたとしても、2021年2月度はさらに厳しい数字になりそうだと思われます。
期間のずれがあってややわかりにくいですが、変動賃料のうち最低保証賃料が設定されている3ホテルと固定賃料のサンルートを合わせると、年間賃料収入は少なくとも2,957.4百万円、6か月で1,478.7百万円なので、これにヒルトン小田原が加われば、営業収入の最低ラインは1,500百万円程度と考えられるでしょう。ここで経費は営業収入にかかわらずほぼ一定だと仮定すれば、1口当たり分配金は1,200円、年間2,400円程度が下限値と推計できます。5月29日の株価が102,100円なので、これが高いか安いかは微妙ですが、1年程度のスパンで考えると厳しいのではないでしょうか。
むすび
5月中に開示するとしていた当法人の分配金予想ですが、月末のギリギリになって開示されました。変動賃料の基準月と賃料収入のタイミングにずれがあるため、8月末時点でも新型コロナの影響が限定的であり、当法人の業績に与える影響は翌期の2021年2月期まで及びそうです。
ホテル需要の回復が今後どのようなペースで進んでいくのか非常にわかりにくいため、変動賃料について3物件で最低保証賃料が設定されていることで、少なくともインヴィンシブルのようなことにはならない安心感はあります。
3年くらいのスパンで考えれば、いずれ株価はコロナ前の水準に回復するだろうと考えられますし、1年くらいのスパンで見れば分配金収入はREITとしては物足りない水準だと言えます。
私としては今後株価が大きく下がるようなことがあればまた買いたいとおもいますが、今の水準では様子見かなと思っています。
なお、この記事はあくまで僕の個人的な見解を示したものなので、投資判断はくれぐれも自己責任でお願いします。