最近私が注力しているソフトバンクグループは、投資会社であり直接またはSBVFなどを通じて数多くの会社に投資しています。当社の財務戦略は非常に複雑で、かつ開示されている資料のボリュームが多いので、全貌を理解することはなかなか難しいのですが、投資会社でありながら普通の会計基準を適用することでかえって実態が分かりにくくなっているのではないかと感じています。
当社の決算説明会では、投資成果として株主価値の増大を重視して説明している一方で、会計上の利益についてはあまり重視していないような発言が見られます。確かに投資会社である以上、投資対象の株式を時価評価した上で、株主価値がどれだけ増減したかが成果として問われるべきだという考え方には一理あると思います。
株主価値
当社の言う株主価値は、次のように保有している株式の時価(公正価値)から純負債を差し引いた差額を発行済株式数で割って計算されます。
出典:当社ウェブサイト
この数字は8月11時点のものですが、これによれば株価は株主価値の半分程度ということになります。
一方、2020年6月末の親会社の所有者に帰属する持分は6,532,437百万円で、自己株式を除く発行済株式数は1,946,495,583株なので、1株当たりの純資産は3,356円しかありません。
会計基準
当社はIFRSを適用していますが、保有株式についてはその分類によって次のような処理となっています。
【連結子会社】
B/S、P/Lを合算し、そこから非支配株主に帰属する部分を控除されます。そのため、上場企業であっても株価の時価が反映されることはありません。
【持分法適用会社】
投資を取得原価で認識した後は、対象会社の純資産に対する持分の取得後の変動に応じて帳簿価額を修正します。そのため、上場企業であっても時価の変動がそのまま帳簿価額に反映されることはありません。また損益については、対象会社の損益のうち持分に応じた部分を持分法による投資損益として認識します。
【その他の株式】
IFRSではその他の株式について、公正価値(時価)で評価し、簿価との差額を「その他の包括利益」に含める処理をする(FVOCI)と、公正価値(時価)で評価し、簿価との差額を「純損益」に含める処理をする(FVTPL)とがありますが、当社の場合、重要な会計方針によれば、SBVFによる投資については子会社に該当するもの以外はFVTPLで処理しているとしています。そのため、対象会社の公正価値(時価)の変動はそのまま投資損益として認識されることになります。
このように、保有株式はその分類によって会計処理が異なるため、例えば、当社の保有株式で最も時価の大きいアリババは、持分法適用会社とされているため、B/S上の評価は取得原価に取得後のアリババの純資産の変動のうちの持分相当額を加減したものとなり、時価の変動は反映されません。また、損益についてもアリババの損益のうち持分相当額が「持分法による投資損益」として計上されるだけで、時価の変動による評価損益はP/Lには反映されません。
さらに、当社はヘッジ目的でデリバティブを活用していますが、ヘッジ会計を適用していないデリバティブ取引はFVTPLで処理されるため、例えばアリババ株式の先渡売買契約やそのカラー取引なども、時価の変動が損益に影響することになります。
むすび
当社の財務戦略は非常に複雑ですべてを把握、理解できているわけではありませんが、当社の決算書のわかりにくさの一つとして、保有株式の区分によって会計処理方法が異なり、B/S、P/Lに与える影響も異なることを簡単に説明してみました。
ただし、それ以上に分かりにくいのは、ユニコーンの発掘だけでなく、上場ハイテクグロー株へ投資するようになり投資ファンドになったかと思えば、多額のオプション取引でヘッジファンドになったのではないかとの疑念を持たれている点にあるでしょう。
ただ、開示義務がない限り投資手法やポジションについて積極的に開示されることはないと思いますので、次の決算発表までは当社が何をしようとしているのかわかりにくいのだろうと思います。
私は、当社はこれまでもヘッジ目的でデリバティブは多用してきましたので、最近始めた上場株式への投資に附随したものだろうと想像しています。
当社の投資スタンスに対する疑念とナスダックをはじめとする米国株の下落で当社の株式も売り込まれていますが、私は比較的楽観的に捉えていますので、この機会に無理のない範囲でポジションを増やしています。
なお、この記事はあくまで僕の個人的な見解を示したものなので、投資判断はくれぐれも自己責任でお願いします。